経済学部・大学院経済学研究科

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20世紀前半のイギリス多国籍企業と国際課税制度

企業経営学科 准教授 井澤 龍

[研究概要・目的]

 現在、OECD等で国際課税制度に関する世界的ルールの変革が議論される中、なぜ今に至る税制が構築・維持されたかを理解するためには、20世紀前半において世界一の外国投資国家であり、国際政治において大きなプレゼンスを持ったイギリスの役割を理解する必要がある。イギリスの国際課税制度が、多国籍企業、企業団体、政治家、政府(内国歳入庁、財務省等)、国際機関等(国際連盟、国際商業会議所)といった諸アクターの下、どのように構築され、その制度的遺産がいかに現在へ残滓したのかを明らかにすることで、より大きな視点から現状の制度変革の議論を把握することを目指す。

[研究実施方法・経過]

 外国史研究であることから、適切な史料を収集することが重要性を持つ。国際連盟、国際商業会議所の議論に参加したイギリスの企業団体、政府代表に焦点をあて研究史料を収集・調査し、分析を行う。研究史料・史料所蔵地は以下。(1). Yale大学Thomas Sewell Adams史料(アメリカ、2017年11月27-28日)、
(2). 英国政府史料、Federation of British Industries史料、British Bankers' Association史料(イギリス、2017年11月29日-12月5日)。
 研究の性質上、史料収集・調査の進捗状況も研究成果の一部となる。その上で、史料を分析し得られた・得られる見込みの研究成果を報告する。

[史料収集・調査の進捗状況]

(1). Yale大学Thomas Sewell Adams史料について
Adams史料は、1920年代の国際連盟における国際課税制度に関する世界的なルール作りをする際に多大な貢献をしたアメリカ代表の個人史料である。アメリカ側からみたイギリス代表の行動について記した史料だけでなく、イギリスの政府・企業団体、国際連盟未所蔵の会議史料が数十点見つかったことから、研究の進捗に資する史料収集を行えたと評価できる。 (2). イギリスにおける史料収集・調査について
 英国政府史料については、1930年代史料、英仏租税条約交渉史料を中心にNational Archives, UKにて収集した。英国政府史料から、Federation of British Industriesの発言力が増大していく過程が明らかになった。この点を、同団体の史料でも確認すべくModern Record Centreに赴き、史料収集を行った。Federation of British Industriesと同じく国際商業会議所イギリス国内委員会の主要メンバーであったBritish Bankers' Association史料もLondon Metropolitan Archivesにて収集した。しかし、金融業者団体が国際課税政策形成に及ぼした影響は観察できなかった。

[収集史料の分析状況と研究発表予定]

 上記の史料収集によって得られた発見事実は、直接的には、2017年11月発刊の『滋賀大学経済学部研究年報 第24巻』所収論文「イギリスの経済団体と国際的二重課税問題(1)―1919年から1945年のFederation of Brithish IndustriesとAssociation of British Commerceの政治的活動を事例として」の続編論文の執筆に資する。2017年年報論文が、1920年代までの記述にとどまったのは紙幅の都合もあるが、1930年代以降の史料が論文執筆時点で十分に揃っていなかったことも大きい。今回の史料収集により、論文執筆に耐えられる史料を収集できたため、「イギリスの経済団体と国際的二重課税問題(2)」を研究年報あるいは彦根論叢に2018年度中に投稿できるよう執筆をすすめる。論文では、1920年代の国際課税政策の問題が露わになる中で、英国経済団体が制度の修正を図ろうと政府にアクセスし、制度変革に結び付けていった過程を明らかにする。戦後の二国間租税条約の重要な参照事例となった1945年英米租税条約の締結を終点とし、英国企業団体が国際課税制度の構築に対して果たした役割を論ずる。
 一方、2017年年報論文では、British Bankers' Association史料を用い別論文を執筆する可能性について触れていた。しかし、上記のように一論文として成立させることができるような内容を同団体史料が含んでいなかったことが明らかになったため、2017年年報論文におけるこの記載箇所について、2018年論文で修正文を挿入する。
 なお、来年度中にはイギリスの経済団体が国際課税政策に与えた影響について論じた英文論文を執筆することも予定している2017年年報論文、2018年論文をあわせた内容をベースに加筆修正し、さらにAdams史料によるアメリカ側からの視点を加えた内容を構想している。ディスカッションペーパー(リスク研究センター発行)化した上で英文査読誌(候補はEnterprise & Society)に投稿することを予定している。


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