国際会議(New Developments In Ecological Footprinting Methodology, Policy and Practice)への出席・発表およびコーク市(2005年度ヨーロッパ文化都市)についての資料収集
経済学科 准教授 中野 桂
今回の海外渡航の目的は二つあった。ひとつは、EUによって2005年度ヨーロッパ文化都市に選定されたコーク市に
関する資料収集を行い、文化政策と都市計画の関係を探ること。もうひとつはエコロジカル・フットプリントについての
国際学会に参加し、「グローバル・ヘクタール」などの概念について意見交換をし、この分野における海外の研究動向について
研究者交流を行うことであった。前者については、初めての現地ということもあり、まずはこの地域におけるコーク市の位置づけを幅広く見ることとした。 特に、コークはケリー地方(郡)とあわせて、コーク・ケリー地方と呼ばれることも多く、相当に関係が深い。 遺跡などの多いケリー地方は多くの観光資源を残しており、コーク市がその入り口としての役割を果たしている面がある。 また、コーク郡の西部からケリーとの郡境には、大規模な風力発電施設が続々と建設中であり、 この国のエネルギー供給体制が急速ピッチで変化してきていることを示している。 アイルランドは、2020年までに電気の約30%を再生可能資源から得ることができるとしている。 この数字が荒唐無稽ではないのは、現状でも既に800MWの風力発電施設容量をもち、 2010年にはその発電容量は1200MWとなる見通しで、ピーク時の消費量約5000MWからするとこれは既に20%前後あるからである。
こうした取り組みがある一方、今回の視察では泥炭の採掘現場もことができた。泥炭は伝統的な燃料であるが、 その生成には長い年月がかかり、再生可能資源というよりもむしろ化石燃料と考えたほうが良いといわれる。
現在のコーク地域の人口は約35万人(市部は12万人)であるが、2020年までに23%(+78000人)の増加が見込まれている。 エネルギー事情にとどまらず、環境、文化、都市政策のそれぞれの観点から、近代と伝統のバランスをどのように維持していくかと いうことが、いかに難しくかつ大切であるかについて大きな課題がある。今後は2004年に策定された 「コーク市開発計画2004」の内容を精査し、また進捗状況のレポートなどを参照しながら、追跡して調査をしたい。
第二の訪問地ウェールズのカーディフではエコロジカル・フットプリント(EF)の国際会議 (New Developments In Ecological Footprinting Methodology, Policy and Practice)に参加をした。 EFについては、これまでもエコロジカル経済学会など分科会の中で論じられることはあり、 またEFのみを取り上げた国際的な会合は2006年にイタリアのシエナで開かれたFootprint Forum 2006があるが、 本格的な学会としては初めてのものであった。 6つの基調講演のほか、5つほどの分科会が同時に立てられ、3日間にわたって議論が行なわれた。
この会議の特徴的は、そのタイトルに如実に現れている。まず、EFの算定方法(Methodology)は会議の中心的議題のひとつであった。 そこでは算定方法の標準化と産業連関表を用いた新しい算定方法などの、必ずしも方向性を同じにしない議論が併行して行われたが、 それが対立ではなくお互い許容しあう雰囲気の中で行なわれていた。同じことは、残るふたつの中心議題、政策(Policy)と 実践(Practice)とのかかわりでも言うことができる。つまり、各国政府に公式統計としてEFを採用してもらうためには、 その算定方式についての統一的基準が不可欠であるが、一方では地方自治体やコミュニティ、学校といったレベルでは、 必ずしも厳密な定義に基づかないながらも、EF概念の趣旨を損なわない形での実践が数多くされており、 そうした事例が多く報告された。
EFは、人間の消費行動からもたらされる環境負荷を-その途中の算定方法は複雑であるが -土地面積という単純な一元的指標で表したものであり、わかりやすさという面では数多くある類似の指標の中と くらべても普及が進んでいるものの一つである。
2年後にも同様の大会が予定されているようでもあり、今後も国際的な研究動向ならびに政策適用について継続して 注目していきたい。
渡航中はユーロ、ポンドが高く、閉口したが、本助成金のおかげで貴重な研究の機会を得ることができた。 ここに記して感謝申し上げたい。
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